「上場廃止」と聞くと、どんなイメージを持つでしょうか。
業績不振、経営破綻、株価暴落……。
多くの人は、あまり良いイメージを持たないかもしれません。
ところが現在、東京証券取引所では上場廃止企業が増えています。
しかも、単純に「倒産する企業が増えている」という話ではありません。
2026年9月4日時点で、東証の上場廃止企業は128社となり、2025年の年間125社をすでに上回りました。これにより、2024年、2025年、2026年と3年連続で過去最多を更新する状況となっています。
では、なぜ上場廃止がこれほど増えているのでしょうか。
そして、これは日本株に投資する個人投資家にとって、悪いニュースなのでしょうか。
今回は、東証の上場廃止増加の背景と、投資家が注目したいポイントについて考えてみます。
上場廃止が3年連続で過去最多に
2026年9月4日時点で、東証の上場廃止企業は128社。
2025年の年間上場廃止数が125社だったため、2026年は9月時点ですでに前年を超えています。
つまり、今年も年間ベースで過去最多を更新する可能性が高い状況です。
「上場廃止企業が増えている」と聞くと、
日本企業の業績が悪化しているのでは?
と思うかもしれません。
しかし、ここで注意したいのが、上場廃止にはさまざまな理由があるということです。
上場廃止=倒産 ではありません。
むしろ、現在増えている上場廃止の多くは、買収やMBOなどによる「非公開化」が大きな割合を占めています。
上場廃止=業績不振ではない
「上場廃止」と聞いて最初に思い浮かぶのは、業績不振による上場廃止かもしれません。
しかし、実際にはそうとは限りません。
例えば、企業が他社に買収されて完全子会社になれば、株式市場に上場している必要性がなくなるため、上場廃止になることがあります。
また、経営陣がMBO(マネジメント・バイアウト)によって会社を買収し、非公開化するケースもあります。
実際、経済産業省の資料によると、2025年の上場廃止理由では、他社による買収が44%、支配株主等による買収が27%、MBOが21%を占めています。
つまり、「上場廃止が増えた=倒産する企業が増えた」と考えるのは適切ではありません。
むしろ現在の東証では、
「この会社は、本当に上場し続ける必要があるのか?」
という企業側の判断が増えていると見ることができます。
なぜ企業は上場をやめるのか?
企業が上場をやめるのには、いくつか理由があります。
上場を維持することにもコストがかかる
企業が上場すると、株式市場から資金を調達できるという大きなメリットがあります。
一方で、
- 決算開示
- IR活動
- 株主総会
- コーポレートガバナンス
- 株主との対話
- 上場維持基準への対応
など、さまざまな負担も発生します。
上場によって資金調達や知名度向上などのメリットを得られるのであれば、それらのコストを負担する意味があります。
しかし、
「上場していることが企業価値の向上につながっているのか?」
と考えたときに、必ずしもそうではない企業もあります。
その場合、MBOなどによって非公開化するという選択肢が出てきます。
東証が「上場しているだけ」の企業を減らそうとしている
もう一つ大きいのが、東証自身の市場改革です。
東証は2023年3月、プライム市場とスタンダード市場の全上場会社に対して、「資本コストや株価を意識した経営」の実現に向けた対応を要請しました。
これは投資家にとっても非常に重要な変化です。
例えば、「昔から上場しているから、そのまま上場し続ける」というだけではなく、
- 資本を効率的に使えているのか
- 株主から預かった資本に対して十分な利益を生み出しているのか
- 株価が企業価値を適切に反映しているのか
- 成長投資に資金を使っているのか
- 余剰資金をどうするのか
といったことを、経営陣が考えることを求められるようになっています。
さらに東証は2026年4月、「資本コストや株価を意識した経営」に関する要請をアップデート。
その中で、経営資源の適切な配分などを投資家の期待や取り組みのポイントとして整理しています。
つまり東証は、「とりあえず上場している会社」ではなく、「上場企業として株主価値を高める努力をする会社」をより重視する方向に動いているのです。
上場維持基準の経過措置も終了
そして、今回の上場廃止増加を考えるうえでもう一つ重要なのが、上場維持基準に関する経過措置の終了です。
東証では市場区分の見直しに伴って上場維持基準が設けられましたが、一定の企業については、基準への適合に向けた計画を開示することなどを条件に経過措置が設けられていました。
しかし、その経過措置は2025年3月に終了しています。
現在は、本来の上場維持基準が適用され、基準に適合しない企業には改善期間が設けられます。
それでも基準を満たせなければ、監理銘柄・整理銘柄を経て上場廃止となる仕組みです。
実際、東証の上場廃止銘柄一覧を見ると、2026年には「上場維持基準への不適合」を理由とする上場廃止も確認できます。
つまり、今回の上場廃止増加には、企業側のMBO・買収による自主的な非公開化と、東証の市場改革による退出という、異なる動きが含まれているわけです。
上場廃止が増えるのは悪いことなのか?
上場廃止企業が増えていると聞くと、
「日本株市場が衰退しているのでは?」
と思うかもしれません。
しかし、私は必ずしもそうとは考えません。
むしろ、日本株市場の新陳代謝が進んでいると見ることもできます。
例えば、上場企業の中に、
- 成長性が低い
- 資本効率が低い
- 株主価値を十分に意識していない
- 上場しているメリットが小さい
という企業があったとします。
その企業がMBOによって非公開化したり、買収によって完全子会社になったりすれば、その企業は上場市場から退出することになります。
一方で、成長性が高く、資本を効率的に活用し、株主価値を高める企業には投資資金が集まりやすくなります。
そう考えると、
上場企業の「数」を増やすことより、上場企業の「質」を高める
方向に市場が変化しているとも考えられます。
「上場企業が減る=日本株がダメ」ではない
例えば、100社の上場企業がある市場と、80社の上場企業がある市場を比較したとします。
100社のほうが必ずしも良い市場でしょうか。
そうとは限りません。
100社のうち、「成長しない」「資本効率が低い」「株主価値を重視しない」企業が多数含まれているのであれば、投資家にとって魅力的な市場とは言いにくいでしょう。
反対に、80社しかなくても、「成長性が高い」「収益性が高い」「資本効率が高い」「株主還元にも積極的」という企業が多ければ、投資家にとっては魅力的な市場になります。
つまり、上場企業の数だけで市場の良し悪しを判断することはできません。
投資家が見るべきなのは「企業の選別」
大切なのは、「これからどの企業が市場に残り、どの企業が退出していくのか」という視点です。
東証が企業に対して資本コストや株価を意識した経営を求めるようになったことで、今後は企業間の差がより明確になる可能性があります。
そこで、個別株を選ぶ際には、単純にPERやPBRだけを見るのではなく、次のようなポイントも確認したいところです。
① ROEなどの資本効率を見る
PBRが低いから割安。
これは一つの考え方です。
しかし、PBRが低い理由が、
「資本を効率的に使えていないから」
という可能性もあります。
そこで、ROEなどの資本効率を見ることが重要になります。
もちろんROEが高ければ必ず優良企業というわけではありません。
しかし、「株主から預かった資本を使って、どれだけ利益を生み出しているのか」を見るうえで重要な指標です。
② 現金をどう使っているのかを見る
「現金をたくさん持っている会社だから安心」という見方もできます。
しかし、投資家としては、
「その現金を何に使うのか?」
まで考えたいところです。
例えば、
- 成長投資
- M&A
- 設備投資
- 研究開発
- 自社株買い
- 配当
- 財務基盤の強化
など、さまざまな使い道があります。
現金を大量に持っているだけで、それを有効活用できていなければ、株主にとって必ずしもプラスとは限りません。
③ 中期経営計画を見る
個別株投資をするなら、決算短信の数字だけでなく、中期経営計画にも目を通したいところです。
特に、「今後、会社がどのように企業価値を高めようとしているのか」を確認します。
例えば、「売上を増やします」だけではなく、
「ROEを○%まで引き上げる」
「不採算事業を整理する」
「政策保有株式を縮減する」
「成長分野へ資本を移す」
「自社株買いを実施する」
といった具体的な取り組みがあるか。
ここを見ることで、経営陣が株主価値をどのように考えているのかが見えてきます。
④ MBOされそうな会社を探すのはどうなのか?
上場廃止が増えていると聞くと、
「だったらMBOされそうな割安株を買えばいいのでは?」
と考える人もいるかもしれません。
確かに、MBOや買収による上場廃止では、TOB価格が市場価格を上回るケースがあります。
そのため、結果的に株主にとって大きな利益になることもあります。
しかし、「MBOされるかもしれない」という期待だけで株を買うのは危険です。
MBOされなければ、株価が上がる保証はありません。
また、MBOが発表されたとしても、その買収価格が企業価値に対して十分なのかという問題もあります。
だからこそ、
「MBOされるかもしれない会社」ではなく、「MBOされなくても保有したい会社」
を選ぶことが大切だと思います。
MBOは、あくまで結果として得られる可能性のある材料の一つ。
これくらいに考えておくほうが、長期投資では健全でしょう。
上場廃止が増える市場で、投資家は何を見るべきか
今回のニュースを見て、私は「上場廃止が増えている」という数字そのものよりも、日本株市場の評価軸が変わってきていることに注目したいと思います。
これまでは、「上場している」ということ自体に一定の価値がありました。
しかし現在は、「上場しているなら、株主に対してどのような価値を提供するのか?」ということが、より厳しく問われています。
東証も市場改革の中で、資本コストや株価を意識した経営を求めています。さらに2026年には、その取り組みを「経営資源の適切な配分」という観点からアップデートしています。
これは個人投資家にとっても重要な変化です。
今後は、「割安だから買う」だけではなく、「なぜ割安なのか?」まで考える必要があります。
そして、
「その企業は資本を有効に使おうとしているのか?」
「経営陣は株主価値を意識しているのか?」
「不採算事業を放置していないか?」
「成長投資に資金を振り向けているか?」
といったところまで確認したいです。
まとめ
東証の上場廃止企業は2026年9月4日時点で128社となり、2025年の125社をすでに上回りました。3年連続で過去最多を更新する状況です。
ただし、
上場廃止が増えている=日本企業が衰退している
とは限りません。
2025年の上場廃止では、他社による買収、支配株主による買収、MBOなどによる非公開化が大きな割合を占めています。
また、東証では市場改革が進み、上場企業に対して「資本コストや株価を意識した経営」が求められています。上場維持基準の経過措置も終了し、基準に適合できない企業は上場廃止となる仕組みが強まっています。
つまり、今回の上場廃止増加は、「日本株市場が衰退している」というより、「上場企業の選別が進んでいる」と見ることもできるのではないでしょうか。
投資家として重要なのは、上場企業の数ではありません。
どの企業が市場から評価され、どの企業が退出していくのか。
そして、自分が保有している企業が、「なぜ上場し続けるのか」まで考えてみることです。
これからの日本株投資では、PERやPBRといった株価指標だけでなく、ROEなどの資本効率、経営資源の使い方、株主還元、成長投資、そして経営陣の株主価値に対する姿勢を見ることが、ますます重要になっていくのではないでしょうか。
「上場しているから買う」のではなく、「上場企業として価値を高め続けられる会社なのか」を見極める必要があります。
上場廃止が過去最多となっている今だからこそ、個人投資家にもそんな視点が求められているのかもしれません。
