日本の投資信託市場で、ひとつの大きな転換点を示す数字が出てきました。
2026年9月15日付の日本経済新聞によると、国内外の株式に投資する日本の投資信託について、インデックス型の純資産総額がアクティブ型を初めて上回りました。
日本経済新聞がモーニングスター・ジャパンの協力を得て集計したもので、ETFとブルベア型は除外されています。
2026年9月11日時点では、
- インデックス型:77兆9,900億円
- アクティブ型:77兆8,700億円
となり、インデックス型が1,200億円上回りました。しかし、重要なのはこの差額ではありません。
かつてはアクティブ型が圧倒的に大きかった日本の投資信託市場で、ついにインデックス型が資産規模で逆転したことです。
これは、日本の個人投資家が投資信託に求めるものが変わってきたことを示す象徴的な出来事ではないでしょうか。
では、なぜここまでインデックス投資が広がったのでしょうか。
そして、この流れを個人投資家はどう考えればいいのでしょうか。
インデックス型がアクティブ型を逆転
2026年9月11日時点の純資産総額は、インデックス型77兆9,900億円に対して、アクティブ型77兆8,700億円。
インデックス型が約50.04%、アクティブ型が約49.96%という、ほぼ半々のところまで来ています。
まだ大差がついたわけではありません。
それでも、この逆転には大きな意味があります。
なぜなら、インデックス型の伸び方が非常に大きいからです。
過去20年間で、インデックス型の純資産総額は約30倍に拡大した一方、アクティブ型は約4倍にとどまっています。
この数字を見ると、今回の逆転は一時的な順位変動というより、長い時間をかけて進んできた構造変化の結果と考えることができます。
なぜインデックス投資がここまで増えたのか
最大の理由のひとつは、コストです。
インデックスファンドは、基本的に日経平均やTOPIX、S&P500、MSCI ACWIなどの指数への連動を目指します。
個別銘柄を選び、市場平均を上回ることを目指すアクティブファンドと比べると、銘柄選択や調査に必要な運用コストを抑えやすいという特徴があります。
そして長期投資では、このコスト差が無視できません。
たとえば、年0.1%のコストと年1.0%のコストでは、差は0.9%です。
1年だけなら、それほど大きく感じないかもしれません。
しかし、20年、30年と運用期間が長くなれば、複利によって差が積み上がります。
モーニングスターも、日本のファンドについて、運用費用はファンドの将来の成功を予測するうえで重要な指標のひとつだとしています。
長期の資産形成では、リターンを予測することは難しいです。
一方で、投資家が支払うコストは、ある程度コントロールできます。
この違いは非常に重要です。
新NISAがインデックス投資を後押しした
もうひとつ大きいのが、新NISAです。
2024年から始まった新NISAでは、長期の資産形成を目的として、投資信託を積み立てる投資家が増えました。
特に、低コストの全世界株式や米国株式のインデックスファンドは、長期・積立・分散というNISAの考え方とも相性がいい商品です。
モーニングスターの2026年の分析でも、新NISAを通じた積立投資の広がりが日本の投資家行動に影響しているとされています。積立投資によって、市場の上昇・下落に応じたタイミング判断を抑えやすいことも指摘されています。
つまり、低コスト・長期投資・積立・分散・NISAによる非課税という複数の要素が重なったことが、インデックス投資の普及を後押ししたと考えられます。
もうひとつの変化は「投資家が比較できるようになった」こと
以前の投資信託選びでは、金融機関の窓口で勧められた商品を購入するというケースも珍しくありませんでした。
しかし、現在はネット証券を使えば、投資信託の信託報酬や過去のリターン、純資産総額などを簡単に比較できます。
さらに、SNSやYouTube、投資ブログなどを通じて、個人投資家同士が情報を共有することも当たり前になりました。
その結果、「何となく人気だから買う」から、「この商品は何に投資していて、コストはいくらなのか」という視点で商品を選ぶ人が増えてきたと考えられます。
アクティブファンドは不要なのか
今回のニュースを、インデックス投資の勝利=アクティブ投資は不要と解釈するのは少し単純すぎます。
そもそもインデックスが市場を反映するためには、個別銘柄を分析して売買する投資家が存在する必要があります。
企業の価値を分析し、割高だと思えば売り、割安だと思えば買うというアクティブな投資家の行動があるからこそ、株価が形成され、指数も成立します。
インデックス投資家は、その市場に低コストで参加しているとも言えます。
したがって、インデックス投資とアクティブ投資は、完全な敵同士ではありません。
市場の中では両者が共存しています。
それでも「平均的なアクティブ運用」は簡単ではない
一方で、個人投資家がアクティブファンドを選ぶ際には、慎重になる理由もあります。
S&P Dow Jones Indicesの2026年6月の分析では、日本籍のアクティブ株式ファンド933本のうち、2025年にそれぞれのベンチマークを下回ったものが80%超でした。
しかも難しいのは、今年成績が良かったファンドを見つければ、それで終わりではないことです。
過去に優秀だったファンドが、その後も継続して優秀な成績を残せるとは限りません。S&Pの分析でも、短期間で好成績を収めたアクティブファンドが、その後も上位にとどまることの難しさが示されています。
ここにアクティブファンド選びの難しさがあります。
「プロが運用しているから安心」ではなく、そのプロに高い運用コストを払うだけの価値があるのかを考える必要があります。
インデックス投資にも注意点はある
インデックスファンドだから安全、というわけではありません。
たとえば全世界株式に投資するファンドでも、株式市場全体が大きく下落すれば、当然ながら基準価額は下がります。
S&P500なら米国株の影響を強く受けます。
さらに、インデックスの中身は固定ではありません。
指数の構成銘柄は定期的に入れ替えられますし、時価総額加重型の指数であれば、株価が上昇した企業の比率が大きくなります。
つまり、インデックス投資は「何も考えなくていい投資」ではありません。
何に連動する指数なのか。
どの国・地域に投資するのか。
為替の影響をどの程度受けるのか。
信託報酬や実質的なコストはいくらなのか。
自分の資産全体の中で株式比率は適切なのか。
こうした点は確認する必要があります。
モーニングスターも、同じ指数に連動するファンドでも、運用費用だけでなく指数への連動効率などを確認する必要があるとしています。
「インデックスなら何でもいい」でもない
インデックス型の純資産総額がアクティブ型を上回ったからといって、「これからはインデックスなら何を買ってもいい」という話ではありません。
同じS&P500に連動するファンドでも複数の商品があります。
同じ指数なら基本的な値動きは似ていますが、信託報酬などのコストには違いがあります。
また、全世界株式と米国株式では投資対象が異なります。
インデックスという「運用方法」と、どの指数を選ぶかという「投資対象」は別の問題です。
インデックス投資家が増えると市場はどうなる?
今回のニュースには、もうひとつ興味深い論点があります。
それは、インデックス投資家が増えすぎると、市場の価格形成はどうなるのかという問題です。
インデックスファンドは基本的に指数に従って売買します。
個別企業を分析して、割安・割高を判断して売買するわけではありません。
もし市場参加者の大半が指数に追随するだけになれば、個別企業の価値を分析して価格を付ける投資家が減り、価格発見機能が弱くなるのではないかという議論があります。
実際、今回のインデックス型とアクティブ型の逆転は、単なる投資商品の人気ランキングではありません。
市場そのものが、人が銘柄を選ぶ市場から、指数を通じて市場全体に投資する市場へ少しずつ変化していることを示す現象とも考えられます。
ただし、現時点で「インデックス投資の拡大によって市場の価格形成が機能しなくなった」と結論づけることはできません。
アクティブ投資家は依然として大きな存在ですし、インデックス投資家が増えること自体が、直ちに市場の効率性を損なうとは限らないからです。
個人投資家にとって一番重要なのは「勝てるか」より「続けられるか」
自分が長期間続けられる投資方法なのかということが大切です。
アクティブファンドを選んで、
「今年はこのファンドが一番成績が良かった」
「来年はこのテーマが伸びそう」
と毎年乗り換えるのは非常に難しい投資です。
一方で、低コストのインデックスファンドを購入して、毎月淡々と積み立てること自体は非常にわかりやすいです。
そして、資産形成ではこの「シンプルさ」が意外と重要です。
モーニングスターの2026年版「Mind the Gap」でも、日本の投資信託市場では投資家の売買タイミングによるリターンのズレが比較的小さく、インデックスファンドでは多くの期間で投資家リターンがファンドのトータルリターンを上回る正のギャップも確認されています。新NISAによる積立投資の広がりが背景のひとつとして挙げられています。
これは、投資家にとってかなり示唆的です。
投資では、何を買うかだけでなく、それを持ち続けられるかも重要だからです。
FIREを目指す人にとっても、この変化は大きい
FIREや長期の資産形成を考える人にとって、今回のニュースは特に興味深いものです。
FIREでは、働いて得た収入だけでなく、保有資産そのものが重要になります。
その資産を長期間運用するなら、
- 投資コストを抑える
- 幅広く分散する
- 市場の上昇・下落を予想しすぎない
- 定期的に投資する
- 暴落時にも投資を続けられる仕組みを作る
といった考え方が重要になります。
だからこそ、低コストのインデックスファンドはFIREとの相性がいいと言われます。
ただし、FIRE後は「株式を持っていること」と「株式を取り崩して生活すること」は別問題です。
資産形成期には株式比率を高くできても、取り崩し期には暴落時の生活費をどう確保するかという問題が出てきます。
インデックス投資を選んだからすべて解決するわけではありません。
「インデックスが人気だから買う」から一歩進む
今回のニュースから私たちが考えたいのは、「インデックス投資が人気になった。だからインデックスを買おう」ということではありません。
むしろ重要なのは、なぜインデックス投資がここまで支持されるようになったのかを考えることです。
低コスト。
分散。
透明性。
ネット証券による購入のしやすさ。
新NISAとの相性。
そして、長期投資を続けやすいシンプルさ。
こうした特徴が積み重なった結果として、20年間で約30倍という大きな資産規模の拡大につながったと考えられます。
そして今回、ついに純資産総額でもアクティブ型を上回りました。
これは単なる「インデックス投資ブーム」ではなく、日本の個人投資家を取り巻く投資環境そのものが変わってきたことを示す象徴的な出来事なのかもしれません。
ただし、インデックスがアクティブを上回ったからといって、アクティブ投資が消えるわけではありません。
市場を分析し、企業価値を見極めようとする投資家がいるからこそ、市場価格が形成されます。
個人投資家に必要なのは、インデックスかアクティブかという二択に決めつけることではなく、
自分の投資目的、運用期間、リスク許容度、そして何より「その投資を続けられるか」
を考えることではないでしょうか。
今回の逆転は、そのことを改めて考えるきっかけになるニュースだと思います。
